あらゆる意味で例をみない取材だった。
まず、取材日の変更に次ぐ変更。当初は7月の下旬にニューヨークで予定されていたインタビューが、レコーディングの遅れや、他国の取材スケジュールとの兼ね合いなどで、日々ずれていく。ようやく8月の2週目でほぼ決定し、日本を発とうとした直前、今度は場所がニューヨークからLAに変更。なんと、レコーディング途中にも関わらず、突然のマネージャー交代劇が起きたのだ。何しろマライアがデビューする前からずっとついていたマネージャー氏であっただけに、この交代劇にはスタッフ一同、大ビックリ。どうやら、これはソニー・レコード社長トミー・モトーラ氏との別れ(そう。すでに報道されているとおり、マライアがトミー・モトーラ氏と別居したのは事実。ただ、本人はインタビューなどで〝DIVORCE〟離婚”という言葉を使わずに、〝SEPARATE〟という言い方をしているが)にともない、彼関係の人脈を一掃して、新たなる布陣でこれからに備えたいというマライアの意志によるものと見られている。で、その新マネージメントがLAを拠点にしているので、マライア本人もそっちへ移って・・・とまあ、そういうことらしい。よって、僕もLAへ。ちなみにこの段階に至って、まだレコーディングは終了していない。
さて、インタビュー当日。午前。サンタモニカにあるソニー・レコードにて、アルバムに収録される全12曲中、上がってきた10曲を試聴。そしてすぐさまマライアが待つ取材場所へとGO!
その場所は、いくつかのスタジオが集まる〝スタジオ・シティ〟という地域の一軒で、街が一望できる高台にある、お金持ちの別荘のようなところ(眺め抜群のプールあり!)。マライアは、ここで残るレコーデイングを行いつつ、この日の数本のインタビューをこなすというわけだ。
国の取材陣とともに本人が現れるのを待つ僕とスタッフ。そして数時間後。どこか奥のほうの部屋からいよいよ登場したマライアを見て、僕は驚いてしまった。水着。ミズギ。み・ず・ぎ。しかもブイブイのビ・キ・二!眩しい水着姿で現れたマライアは、そのままプールサイドに横たわる。服を着た(当たり前か)オーストラリアのジャーナリストは彼女の前のイスに座り、インタビューを開始。う~ん、なんたるシチユエーション。その後の別のインタビューも、マライアは部屋のベッドで寝ながら受けるなど、どうも今回、マライアは横になって話すことがお気に入りの様子。いや、別にちゃんと座って話すのがカッタルイからというわけではなく、これは明らかに自由でセクシーな私”のアピール戦略の一貫とみた。つまり、1stシングル「HONEY」のビデオ・クリップで示したコンセプトの延長線上にあるというわけだ。さらにカナダのテレビ取材では、なんとプールにつかってのインタビュー!: 女性インタビユアーもマライアに導かれ、服のままプールに入って話を聞く。アッパレ!そりゃそうと、この時点ですでに待った時間は実に7時間を超える。いや、待つ側の僕はともかく、つまりマライア本人も7時間ぶっ続けで取材をこなしているというわけ。新人ならともかく、彼女クラスの大物アーティストが1日にこれだけの取材を受けるなど、そうはないこと。今作にかける彼女の意気込みが伝わるようで、働き者とは聞いていたが、その意欲には頭が下がる。
さてさて。確か10時を回った頃に、ようやく僕の出番になった。奥に通され、その部屋に入ると、照明はほのかにスタンド・ライトの灯だけ。ソファで横になっているマライアがいた。「長い間、待たせてしまってゴメンナサイね」と気をつかってくれるマライア。いえいえ、そんなそんな。「ちょっと疲れちゃったから、横になったまま話すけど・・・・」。あー、いや、なんの問題もありませんって。「じゃあ、ここに座って」と、マライアが指したのは、ソファーの上の彼女の足の横。ホエ。というわけで、僕は横たわる美女(それは天下のスーパースター、マライア)の足を抱き抱えるような感じで座り、端から見るとまるで寝室で愛を語る恋人同士のような図(ホントだってば)でインタビューを行うことになったのだった。
ビッグ・アーティストになると3~4年に1枚なんていうのも当たり前なわけですが、あなたは必ず1年か2年という早いペースでアルバムを届けてくれますね。それだけ新しいアイデアや表現欲求が常に渦巻いているわけですか?
違うの。みんなが私に手錠をかけて、スタジオに監禁して仕事しろお!"って言うからよ(笑)。でも確かに曲は常に書いているわ。私にとって曲作りは、仕事というよりも、むしろいいはけ口みたいなものなの。で、せっかく書いたからには、レコーディングもしておきたいでしょ。だからアルバムの数が多くなるのよ。ただ、このアルバムが完成したら、少しゆっくりするつもり。なるべくアルバムからのシングル・カットを多くしてもらって、しばらく曲作りからも離れようと思っているの。
今作は、早く今の自分を表現したい、今の自分が思ってることを早くみんなに知ってほしいという気持ちで作ってました?
そういうふうに考えたことはないわ。私は心の赴くままに書いているだけ。自分の体験に基づいたことしか書けないしね。だから今作も一曲一曲、独立したフィーリングを持っていると思う。曲ごとに、私の心の中の違った場所を訪ねてみた・・・といった感じかしら。
1stシングルの「HONEY」からは、今のあなたの自由に楽しんでいる様子みたいなものが伝わってきますね。これは恋に落ちた女性のハッピーな歌ですが、もしかして、今、恋をしてる?
このところずっとインタビューなどで忙しくしているのに、いつ恋に落ちればいいの? 28番目のインタビューと29番目のインタビューの合間?(笑)。
(笑)。では、これまでのアルバムと比べて、今回、変化したところがあるとしたら、どんなところか話してもらえます?
今回に限らず、アルバムを1枚作るごとに少しずつ大人になっているはずよ。1stアルバムの曲をハイスクール時代に書いて以来、毎年のように何か作っているでしょ?それだけやっていれば必ず何かが身についているはずだし、アルバムを作ることによって、より自分のことを理解できるようになるっていうところもある。特にこの1年半くらいは本当にいろいろと学ぶことがあったから・・・・・。そういう意味でも、このアルバムはとてもパーソナルなものよ。
アーティストとしても、ひとりの女性としても、いろんな意味で成長したと・・・。
アーティストというのは、からだの内側から沸き起こってくる何かに突き動かされて作品を作るわけでしょ?だとしたら、その証が音楽のどこかに必ず表れているはずよ。私は音楽を通して成長し、音楽は私を通して成長していくのだから。
「バタフライ」をアルバム・タイトルにしたのは、蝶のように自由に羽ばたきたいという思いを込めてのことですか?
このアルバムはひとつの特定のテーマを持ったものではないけど、それもテーマのひとつであることは確かね。
この歌詞に、"さよなら”という言葉が出てきますが、これは前向きな意味での別れということですよね。
そう。ただ、それは必ずしも恋愛というシチュエーションにおいての〝さよなら〟とは限らないわ。たとえば、自分に近い人が亡くなった時とか、とても大切にしていたものを手放した時とかにも当てはまること。もちろんその時は悲しいけれど、いずれはその悲しみも癒される。悲しい思いをすることは、生きていくうえでは避けて通れないものであって、人間の成長過程の一部でしょ?だから、この曲で私は、場合によっては手放さなければならないものもあるけど、それに気づき、強くなりましょう、そうすればきっとまたひとつ、大人になれるから・・・といったことを歌っているのよ。
素晴らしい歌詞ですよね。きちんと心の痛みを歌ったうえで、翼を広げて羽ばたいて・・・と歌っているからこそ、説得力を持って響いてくるのだと思います。
ありがとう。
ところで、今回はジャケットの写真、「HONEY」のビデオ・クリップ、それに今日の取材も含めて、あなたはセクシーな面を意識的にアピールしているように感じるのですが、やはり女性として、セクシーさは大事なことなんでしょうねー。
大事とか大事じゃないってことじゃなくて、要は気分よくやれるかどうかってことじゃないかしら?セクシーであることは、とてもパーソナルなことだけど、私だっていろんな変化を経てここまで来て、今はこういう自分の姿に気分よくいられるってことなんだと思うわ。それに、私が考えつかないほど大胆なことをやってる人だって、世の中に大勢いるでしょ(笑)。そう、今回みんなに見てもらっている私は、間違いなく本当の私よ!
話は変わって、前作といい今作といい、まさに現在のアメリカの音楽シーンで活躍する新しいアーティストたちとのコラボレーションが多くみられますよね。そうした人たちの音は、ラジオを聴くなどしてチェックしているのですか?
ええ、ラジオは朝から晩まで聴いてるわ。ラジオなしでは生きられないの。昔からそうだった。子供の頃から、ずつとラジオで育ってきたのよ。4歳の時、こっそりキッチンから持ち出したラジオをベッド・カバーの下に隠してひと晩中聴いていたのを覚えているわ。私にとって、ラジオは一種の精神安定剤。ラジオを聴くことで気持ちが静まって眠れるの。もちろん大事な情報源でもあるわ。時々、私が流行に敏感であることに驚く人もいるようだけど、別にトレンドを自分の音楽に取り入れたくてラジオを聴くわけじゃないわよ。純粋に今の音楽が好きだから聴くの。好きなら、自分の音楽の中にも流れるのは自然なことでしよ?
好きになったら、自分でCDを買いにいったりもします?
たまにね。
今作でコラボレーションした人たちは、どういった基準で選んだんですか?
ボーン・サグスン・ハーモニーは、彼らのユニークなスタイルが好きだったから。(「ベイビードール」の作詞を共作した)ミッシー・エリオットは、ラッパーだけどR&Bにも精通してるから、とても新鮮な言葉を提供してくれたし、ドゥルー・ヒルのボーカルは私の声との相性がよかったから。「ザ・ビューティフル・ワンズ」(プリンスのカバー)は、彼の男性的な部分と私のソフトな部分がうまくミックスされたと思う。なにしろ私は基本的に共同作業が好きなの。コラボレーションは、どんな場合でも楽しいものよ。もともと私は人当たりが悪いほうじゃないと思うし、誰かと組むとすぐにそれが友情へと発展するの。
でも、初めての人と組むことは、勇気がいることでもありますよね?
そんなことないわ。だって、うまくいかなさそうな人とは最初から組まないもの。気が合いそうな人としか仕事しないわ。それに私の音楽は、あくまでも私の中から出てくるものなんだし。
根っから人間好きなんでしょうかね?
ほとんどの場合はね(笑)。
たとえばイギリスのアーティストやプロデューサーと組んだり、イギリスの、たとえばドラムン・ベースといった音楽などを取り入れようとは思いませんか?
まず私は基本的にニューヨークの人間でしょ?そうすると、どうしてもベースになるのはニューヨークのアーバン・ミュージックってことになるのよ。"クールだから”っていう理由だけでイギリスっぽさを取り入れたいとは思わないし、それよりも自分の耳で聴いて、情熱をかきたてられるような音楽をベースにしたいって思うわ。それがつまりニューヨークあたりの音楽ということ。別に他の国の音楽が嫌いだとか言ってるわけじゃないのよ。たまたま自分が住んでいるのがアメリカだから、そうなっているっていうだけよ。
今作でのあなたの歌を聴いていると、ボーカリストとしても、新しいことにいろいろチャレンジしているように思います。たとえば「ベイビードール」は、歌の中にラップの雰囲気を取り入れているようですし。
私は一緒に書きたい人と好きなように書いて、歌っているだけ。そして、そのコラボレーターの一番いいところと私自身が持つ一番いいところを合体させているのよ。ミッシーはラッパーだから、当然ラッパーの立場から曲を書く。彼女に〝あなたなら、ここのメロディをどう書く?〟って聞いたら、彼女は自分のスタイルに準じたヴァースを考えてくれたわ。で、私は私のメロデイを先に考えていたから、ふたりのスタイルを合体させてみたら「ベイビードール」になったというわけ。彼女でもなく私でもない、初めてのスタイルよ。お互いが未知の部分を引き出しあったと言えるわね。それこそがコラボレーションの美学じゃない?お互いの持つ素質を引き出しあいながら、新しい発見をしていく。このアルバムでは全曲でそれが行われているわ。
「疲れているから・・・・。」と言ってはいたものの、このようになかなか中身のある話をたくさんしてくれたマライア。話はまだまだ続くのだが、続きは「ワッツイン」本誌のほうに書きたいと思っているので、そちらもチェック、よろしく!ところで、帰国して4~5日で、完成した全曲のテープが送られてきた。後で聞いたところでは、なんとマライアは僕のインタビューが終了したその日の夜中にもレコーディングを続けたのだという。そのエネルギー、クリエイティビティと並ならない意欲に脱帽。