ルーサー・ヴァンドロスとのデュエット曲を発表

ダイアナ・ロスとライオネル・リッチーが歌った「エンドレス・ラヴ」をルーサー・ヴァンドロスとカバーしたマライア。シングルの発表にともない。9月にロンドンでプロモーションを行なった。その密着レポート。

Mariah Carey - MusicDada Magazine (Japan) - Autumn 1994 - Scans
Magazine Scans
MusicDada (JP) Autumn 1994. Text by Yoshiteru Someno.

すっかり秋の気配に包まれたロンドン・ヒースロー空港に到着したのは、9月13日の午後。ホテルに荷物を置く間もなく、慌ただしくロイヤル・アルバート・ホールに向かった。ルーサー・ヴァンドロスのショーにスペシャル・ゲストとして登場するマライア・キャリーのステージを見るためだ。

この週、マライア・キャリーはロンドンに各国ブレスを招き、数日間のプロモーション活動を行なった。我々はそれを取材しに、はるばるロンドンへやってきたのだった。以下、3日間にわたって間近で、そして遠くから見たマライアのようすをレポート。

まずは冒頭で触れたルーサー・ヴァンドロスのライブ・ショーだ。現在のブラック・ミュージック・シーンで不動の地位を築いたトップ・ボーカリストとマライアのデュエットを、ライブ・ステージで体験できる。めったにないチャンスだが、意外なことにマライアのゲスト出演は一般には告知されていないもよう。会場にもマライアの名前はない。そう、これはあくまでもルーサーのショーなのだ。

そこにマライアがゲスト出演する理由は、皆さんとっくにお察しですね?2人のデュエットですでにヒット中の「エンドレス・ラヴ」が、このステージで披露されるわけ。「ずっと尊敬してきたルーサーと、この曲をぜひいっしょに歌いたい」という彼女の意志で実現したデュエットだけに、ライブではより輝きを放つはず。時差ホケもなんのそのである。

その「エンドレス・ラヴ」はショーの後半に披露された。彼女の影が舞台のソデに見えただけで会場は拍手の嵐。そして、おなじみの黒のコスチュームに身を包んだマライアが、少し遠慮ぎみにステージに歩み出た。マーカス・ミラーをはじめとする豪華なバック・バンドの演奏にのって縦横無尽に絡み合う、超一流のポーカル・ハーモニー。それは、繊細さとエモーションの極みを一曲の内に封し込めた、まさに名唱であった。あぁ、満足・・・・・・。

翌14日はBBCの人気音楽番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」の収録を取材。前日のライブに続いて、マライアとルーサーが出演するのである。この番組はヒットチャートを基にライブ・パフォーマンスとビデオ・クリップで構成する30分番組で、この日のゲストはマライア&ルーサー、シンニード・オコナー、ソフィー・B・ホーキンスら。ここでも、2人は「エンドレス・ラヴ」をデュエットし、みごと2テイクでOK。このへん、やはり貫禄です。会場に招待された10人強の観客は中学生ぐらいの女の子が9割方。彼女たちがオトナのムードの「エンドレス・ラヴ」をうっとり聴き入っている姿は、なかなかほほえましいものがありましたね。そんな彼女たちにマライアも、楽しそうに話しかけていたっけ。

のシューティング・デイだ。まずはテレビ朝日系「ニュースステーション」の生放送。無数のキャンドルに囲まれたシンプルなセットに黒のチューブトップ姿のマライアと3人のバック・コーラス、そしてルーサーのショーにも出演していた20人編成のゴスペル・コーラスがスタンバイ。歌ったのは『ミュージック・ボックス』からの最新シングルでもある「エニタイム・ユー・ニード・ア・フレンド」。重厚なコーラスに呼応するかのようにマライアのボーカルも一際エモーショナルに響き渡る。彼女のコスペル・ルーツを改めて印象づけられた瞬間だった。

その後、マライアとルーサーの2人による最後のシューティング(「オールナイトフジ・リターンズ」の最終回)が行なわれたのだが、これがすごかった。なにしろ「エンドレス・ラヴ」のテイクを重ねること、7回(もしかすると8テイクだったかも)。はた目には完璧に思えるのに、どうも2人は納得していないようすでテイクを重ねていくのだ。途中で2人のパートが入れ替わってしまったり、歌い出したとたんにマライアの舌がもつれてしまうという珍プレーもあったが、しだいに緊張感が高まる中で完璧を期した2人のプロ意識はサスカ。感服させられました。

こうして幕を閉した「エンドレス・ラヴ」漬けのロンドン取材。そこで感したのは、大先輩であるルーサー・ヴァンドロスと互角に渡り合うマライアの実力、そしてプロ意識であった。同時に、スーパースターのオチャメな素顔をかいま見て、得した気も・・・・・・。あとは来日公演の実現を願うだけ、かな。

マライア・キャリーのニュー・アルバムは『メリー・クリスマス』!そのものずばりのクリスマス・アルバムだ。彼女がクリスマス・アルバムをつくる。この誰もが想像できる試みを、一体どれぐらいの人たちが予見していただろうか?実際このように問いかけている僕も、マライアがクリスマス・アルバムをレコーディングしているというニュースを聞いたときは、ちょっとした驚きだった。

ク・ボックス』を発表した時点で、僕は彼女が次のオリジナル・アルバムのプランを立てているという噂を耳にしていたからだ。50年代のように、アルバムを発表する周期が短い時代ならいざ知らず、現在はマイケル・ジャクソンのように何年かに1枚アルバムを出すのが常套手段の時代。年に1枚のペースで何らかのアルバムをリリースしているのは、マライアとプリンスぐらいのものであろう。

とにかく、彼女、エレガントなキャラクターからは想像できないほど、作品のリリースにバイタリティたっぷりに対処している人なのである。

ただ、いくらマライアがスーパースターとはいっても、年に1枚のペースでオリジナル・アルバムをつくっていたら、受験勉強のように煮詰まってしまうだろうし、リラックスした気分になれないはずである。噂のオリジナル作品に代わって、今回クリスマス・アルバムがレコーディングされた背景には、きっとヒット曲を何曲か出す必要があるオリジナル・アルバムをつくるよりも、もっと楽しみながらレコーディングしたいという、彼女の願望があったに違いない。その意味で今回のクリスマス・アルバムは、EP形式のライブ「ヴイジョン・オブ・ライヴ』に近い作品といえる。

もちろん、一種の企画ものといえる「メリー・クリスマス」は、これまでの3枚のオリジナルと比べてラフな内容とか手を抜いた作品になっているわけではない。一度聴いただけでマライア・ミュージック全部に共通するスピリチュアルでエモーションが漂った、マライアならではの作品になっているからである。 この個人のクリスマス・アルバムというと、かつてのモータウンのジャクソン・ファイブやスティービー・ワンダーの作品のように、アメリカのR&B/ポップ・ミュージック界では、一種のアーティストのステイタス・シンボルとしてポピュラーな存在だった。

その伝統は現在もしかと生かされ、最近でいえばニュー・エディションやジェッツ、パティ・ラベル、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック、アレクサンダー・オニール、ボーイズIIメンといったアーティストたちが、クリスマス・アルバムをリリースしている。この顔ぶれからもわかると思うが、クリスマス・アルバムを出せるのはその時代の頂点に立った人気者はかり。すなわち、アーティスト人気があるからアルバムのセールスが期待できるわけで、それが先に述べたステイタス・シンボルの表明になるというわけなのだ。

そしてもうひとつ、この顔ぶれからもわかってもらえることがある。それはクリスマス・アルバムをつくる人たちが、コスペルをバックグラウンドにしたR&B系のアーティストが中心になっていることだ。日本人のイメージ以上に、アメリカではクリスマス・アルバムひとつ取っても、宗教や、ゴスペルという音楽的バックグラウンドの上につくられている。ゴスペルをしっかり自身の音楽に取り入れているマライアが、クリスマス・アルバムをつくるのは極めて自然な試みなのである。

そして「メリー・クリスマス』はこれまでのどのアルバムよりも、コスペルのエレメントが生かされ、彼女がなぜクリスマス・アルバムにこだわったのか一目瞭然の内容だ。

トラディショナルなクリスマス・ソングとマライア自身のオリジナルをブレンドしたコンセプトの中では、おなじみの「SILENT NIGHT」や「O HOLY NIGHT」や、マライアとウォルター・アファナシエフが共作した「MISS YOU MOST (AT CHRISTMAS TIME)」(エンディングのメロディーが「ジングル・ベル」となっているのがチャーミングだ)、チルトレン・コーラスをあしらったオリジナル「BORN ON THIS DAY」、トラディショナルの「GOD REST YE MERRY GENTLEMEN」といった、じっくり聴かせるナンバー群が、ゴスペルのグルーブたっぷりで彼女の本領発揮というべき出来。すっかりマライアのブレインになった観のあるゴスペル出身のバックアップ・シンガー、メロニー・ダニエルスやシャンレ!・プライス、ケリー・プライスが、重量感たっぷりのコーラスで花を添えているのが印象的だ。その一方で、マライアのオリジナルながらトラディショナルな雰囲気を出した「ALL I WANT FOR CHRISTMAS IS YOU」とかフィル・スペクター・ポップス「CHRISTMAS(BABY PLEASE COME HOME)」や、マライアの強力なブレインC+Cがアップ・ビートなサウンドでバックアップした「JOY TO THE WORLD」など、ハッピーなナンバーもゴスペルを生かしたつくり。

トラディショナルな「JESUS WHAT A WONDERFUL CHILD」は、これまでのどの曲よりもコスペル色が濃い、というよりはコスペルそのものだ。マライアと共同でプロデュースしているのはマイケル・ボルトンやピーボ・ブライソンらビッグ・ネームの作品でおなじみのウォルター・アファナシエフだが、アレンジ他でコスペル出身のロリス・ホランドが参加。またC+Cが一曲のみながらクレジットされているのも注目もの。次のオリジナルでも、マライアとウォルター、C+Cの、強固なトライアングルはキープされるに違いない。