マライア・キャリーは忙しい。昨夜はあるアメリカの雑誌の表紙を撮影するため、夜中スタジオに入っていた。“お陰で寝坊しちゃって、起きたら12時になってたわ。” と笑う。本当なら1時に集合のはずが、3時間も遅刻されたのに、そのタイトなスケジュールを考えると、とても責める気にならない。
マライヤは、ジーパンにトレーナーという軽装で、軽くメイクを直すために鏡の前に座った。その間に、10人ほどいるスタッフが、仕事にかかる。メイクをする人、衣装を用意するスタイリスト、ハーブ・ティーを用意する人、それに彼女の気持ちをリラックスさせる音楽を用意する人・・・みんな、彼女ひとりのために動くのだ。スタジオに、スタイリストらが、大型の衣装コンテナーを2箱運び込んできた。この中には、常時200着の衣装が用意されていて、マライアの気分で、その時の衣装が決められる。まるで音楽のことしか頭にないようで、普段着にはまるで無頓着な彼女も、仕事上の衣装となると、かなりこだわる。スタイリストが2〜3着ずつ出してくると、その中から自分で選ぶのだ。恐るべきことに、この200着入りの衣装コンテナーは、テレビ撮影や写真撮影など、自分の姿を撮られる時には、マライアと共に移動することとなる。
今日は、かわいい感じの服が中心で、ボディコン・タイプのセクシーなものは、一点も選ばれなかった。
4時半から、まず写真撮影を始める。近くで見ると、肌がとびっきり美しい。一通りスタジオ内で撮った後、屋上で、ニューヨークの街をバックに撮影しようか、ということになるが、マライアはのどを痛めるのを気にして、外の気温を、さかんに気にしていた。
撮影で気になったのは、彼女が自分のヒップ・ラインを、御自慢だってこと。ポーズをとるたび、腕がお尻の方に廻り、ポイントになるのだ。
写真撮影と、テレビ番組用のコメントを撮ると、残りは20分足らずしかない。この後、8時からオーストラリアのテレビ番組に、衛星中継で生出演するので、終わる時間はズラせない。しかも、その後、イギリスの雑誌取材もある・・・翌日同行した、アメリカの担当氏に訊いたら、夜10時にアメリカ風のフランス料理店で食事をした後、取材をこなし、全日程を終わったら、夜中の1時になっていたそうだった。
なぜ、アルバムのタイトルを「ミュージック・ボックス」と名付けたんですか?
アルバムの中に、「ミュージック・ボックス」(オルゴール)という曲があるの。プロデューサーのウオルター (・アパナシェフ)がシンセサイザーを使ってた時、私が気に入った音があって、そのタイトルをプリント・アウトしたら、オルゴールっていう音だったのよ。じゃあ、シンセより本物を使ってみようということになって、サンプルをとって、キーボードで演奏してたの。歌詞の中でオルゴールについて歌っているわけじゃ、ないんだけど、曲の始めにオルゴールの音が鳴るんで、タイトルとしてはいいんじゃないかって、思ったのよ。
「ミュージック・ボックス」からの第一弾シングルは、「ドリーム・ラヴァー」という曲ですが、これはどういう曲なんですか?
この曲は、デイヴ・ホールと一緒に書いたのよ。デイヴは、ラップやストリート・レコードを、たくさんプロデュースしていた人なの。他にも、R&Bとか、色々やってるのよ。でも、メインでやってるのはストリートものなんで、あたしにもいい刺激になるかなって思って・・・。それに、今迄一緒にやってきた人とは、一味違う事ができると思ったので、デイヴと共同でやったのよ。だから、このアルバムは、今迄のとは、ちょっと違う感じがするのかもしれないわ。今迄より、もっとハードでファンキーな感じがするはずなのよ。
デイヴを起用したのは、彼が今迄作った音を、気に入ってたからですか?
あたし自身ヒップ・ホップをよく聴くので、デイヴ・ホールが、他の人達と一緒に制作してきた作品も、すごく好きだわ。彼と連絡をとって、彼が部屋に入ってきた瞬間から、私達は曲のアイディアを出しあって、色々試しながら、「ドリーム・ラヴァー」を作ったのよ。
このアルバムは、全曲あなたか、あなたとウォルターやデイヴとの共作で、何らかの形であなたが作ったものですが、「ウィズアウト・ユー」だけは、ニルソンが72年にヒットさせた曲のカバーですね?
ええ。「ウィズアウト・ユー」を選んだのは、ずっとこの曲が好きだったからなの。私がまだゆりかごに入っていた赤ちゃんの頃から、母がこの曲を歌ってくれてたらしいの。あたしは全然覚えてないけど、母はそう言ってるし、それを聞いて以来、この曲を聴くと、なんだか懐かしいような、泣きたくなるような、気持ちになるのよ。
このアルバムの写真は、誰が撮ったものですか。
ダネロという女流カメラマンよ。名字はちょっとド忘れしちゃったんだけど、新人カメラマンで、ゲスのキャンペーンを撮った人よ。
この11月2日、マイアミからワールド・ツアーをスタートさせるそうですが、今、どんな気持ちですか?
今計画してる段階なの。初めてのツアーだから、すごく楽しみにしているわ。今までずっと応援してくれてたファンの皆さんと会えるので、念入りに計画しているところなのよ。
今音楽以外に興味を持ってることって、何なんですか?
私は自分で自分の曲をかいてプロデュースするので、アルバムを制作する時は朝から晩までスタジオに缶詰めで集中しているでしょう、そうするとあっという間に時間が経ってしまうので、他に何かをやる時間は無いの。だから、休みになると乗馬したり、ジェットコースターに乗ったり、とにかく活動的な事をするわ。アクション系が好きね。
ところで、結婚おめでとうございます。純白のウェディング・ドレスが似合って、もの凄くきれいでしたよ。
ありがとう。あれをデザインしてくれたのは、ヴェラ・ワングという人なの。彼女って、とてもすばらしいデザインをするのよ。だから彼女にお願いしたの。あのドレスには、あたしもかなり入れ込んだし、何度も手直しして、あたしだけのユニークなドレスにしてもらったわ。
結婚のお祝いに、ラルフ・ローレンをあげるって、おっしゃってましたね?
ええ。でもラルフ・ローレンだけじゃなくて、ティファニーもあげたのよ。両方共、すてきな物が揃ってるもの。
衣装コンテナを運ぶ屈強の男まで混じると、小柄なマライアは、取り巻きの中に埋もれてしまう。この忠実な取り巻きに囲まれた彼女は、まるでお姫さまだった。が、この取り巻き達はうるさい。“髪が乱れた。” “メイクを直した方がいい・。” と言うたび、いちいち写真撮影は中断するのである。その分、本人のマライアは、ほとんど何も言わず、仕事をしてくれるのだ。
その取り巻きの中には、音楽係もいる。レコードを買いにいけない彼女のために、彼女の気に入りそうな音を集めるのも、音楽係の仕事である。最近のマライアは、ラップ系の音をよく聴き、MC. ソーラやジャディ・ジェフ・・・他に、新しめのラップを中心に聴いている。
ところで、マライアはあまり化粧品のブランドに、こだわらない。口紅はクリスチャン・ディオールばかりだが、ディオールが気に入ったというより、メイクの係に、“いいですよ。”と推められたのが、きっかけで、いつもこのバターンで化粧品を適当に買うそうだ。
この取り巻き達の大半は、みるからにゲイ。やっぱりゲイ・ピープルは、センスがいいんだろうか!?
この11月2日、マイアミから、マライアのワールド・ツアーがスタートする。世界各国を長時間かけて廻るが、コンサートとコンサートの間に休養をたっぷり取り、のどを調整しながら廻ることになる。まず年内一杯はアメリカを廻る。
気になる日本公演は今の所未定だが、その前10月に、彼女は宣伝の為、3日間だけ日本を訪れる。あくまでもテレビ主体になる上、スケジュールがタイトなので、ゆっくりする間はなさそう。もちろん多忙なモトーラ氏は同行しない。
日本から帰ってからリハーサルを徹底的にやるので、今の時点では、ツアーのセット、曲目など、全く決まっていないそうだ。
結婚して2ヵ月なのに、マライアは夫のモトーラ氏よりも、ペットに夢中!?家にはネコが3匹、犬が2匹。それだけでも充分すぎるくらいなのに、郊外にある牧場に、馬を2頭持っている。そして、たま~に時間ができると、牧場に現れ、乗馬をするのである。
こんな風にマライアが単独で行動するのは、モトーラ氏が超多忙なせい。存知の通り、モトーラ氏は、ソニー・レコードの社長で、世界中を飛び廻っている。妻のマライアもまた超多忙だから、この夫婦、新婚だというのに、減多に会えない生活を送っているのだ。それでも、彼女のデビュー前からずっとつきあいが続いているのだから、はんぱな絆じゃない!?
それに、つきあいが長く、しかも共同生活を何年もしているので、新婚だからといって、今更ベタベタするわけでもない。日本からの取材陣が訪れたこの日も、同じビルで同社のアーティストがレコーディングしていたこともあって、モトーラ氏はマライアを陣中見舞いしている。入ってくると、“Hi!” と声をかけ、あいさつのキスをして、スタッフと2~3言、話をして、すぐ他の仕事に行ってしまう。たとえ数分であっても、お互いが努力して、無理をしなければ、会うことができないのかもしれない。ワールド・ツアーが始まれば、増々一緒に居られる時間は短くなるかな。
撮影中、日本側の現地スタッフが、自分の飼ってる犬のハナちゃんを連れてきたが、マライアは大喜び。いやがる犬を抱きしめ、写真撮影。しかし、2~3カットで逃げられてしまった。彼女って本当に動物が好きね。
マライアはアルコールは飲まない。飲むのは、のどにいいハーヴ・ティー。
夜遅くまで何も食べられないので、スタジオには、ラビオリ、スパゲッティ、ピザ・が用意されていた。けれど彼女は、少しずつつまんだだけ。あの細いウエストの秘密は、ここにあり!
「ミュージック・ボックス」からの一弾シングルは「ドリーム・ラヴァー」、二曲目は「ヒーロー」、三曲目は「ウィズアウト・ユー」。
「ミュージック・ボックス」は、93年の初めから、7月頃までかけて、発売された。
義父との裁判、姉のエイズ感染・・・マライアの現実はあまりにも厳しかった。だから彼女は、夫の手が必要だったのだ。
日本向けの取材を受けた後、マライアはイギリスを訪れ、幾つかのインタビューをしたが、その中から興味ある発言を拾ってみよう。
“つらいことがたくさんあった後だから、結婚するって、すばらしいことだわ!” 彼女は幸せそうに笑う。前にもお伝えしたように、マライアの姉は、私生児ふたりを抱えているのに、輸血のためにエイズに感染している。以来彼女は数千万円ものお金を何年かに分けて寄付し、できるだけ姉や子供達と一緒に居るようにしている。こちらの問題は、今もって解決の見通しはたっていないが、もうひとつの頭痛の種は、最近になって解決した。それは義父(マライアの母の再婚した夫)ジョセフ・ヴィアンとの裁判である。ジョセフは、無名時代のマライアの手助けをしたとして、計1億円余りの利益配分を要求する裁判をしていた。しかし、具体的なチャンスを作ったわけではなく、アメリカの裁判所は、争う前に、裁判自体を受けつけない、という判断を下した。つまり、全面的に彼女の言い分が認められたわけである。マライアが、ソニーの社長、モトーラ氏との結婚を決意したのは、裁判所の決定が出た後だった。
“その最中には、難問ばかりを放り出すみたいで、結婚なんて考えられなかったわ。” と彼女は言う。“トミーは、私にとって一番の友人なの。彼への感謝は、とても言葉では言いつくせないわ。・でも、あたしは、モトーラ夫人じゃないわ。あたしは、マライア・キャリーなのよ!”