初来日記念●スペシャル・インタビュー

デビューから3年、これまで日本の地を踏んだことがなかったスーパースターマライアが、ついにやって来た。大喜びのキミのために祝・初来日インタビュー。

FM Station Magazine
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FM Station (JP) November 8, 1993. Text by Yuji Muraoka.

秋も深まった10月中旬、マライア・キャリーが初来日した。オリジナルアルバム第3弾『ミュージック・ボックス』のプロモーションと、ソニーのミニディスクのPRのための来日だったが、これまで、マイケル・ボルトンとともに”来日しないスーパースター”といわれてきた彼女だけに、日本列島はちょっとしたマライア・シンドローム。ニュース番組にまでゲスト出演して、改めて日本における人気のすさまじさを感じさせてくれた。今回の来日プロモーションがステップとなり、マライア初のジャパンツアーの可能性も出ており、リスナーはここしばらく彼女の活動をマークしなければならないだろう。それにしても彼女のバイタリテイはすごい。1st『マライア』(90年)に2nd『エモーションズ』(91年)、ライブEP『ヴィジョン・オブ・ライヴ』(92年)、そして今回の3rdと、すべて大ヒット。

新作はマライアとは気心が知れたウォルター・アファナシェフやC&Cがプロデューサーとして参加しているが、全米No1ヒット曲「ドリームラヴァー」では、メアリー・J・ブリッジで当てたディヴ・ホールが新しいブレインとして参加しているのが話題だ。

「デイヴはラップやストリートレコードをプロデュースしてきた実力派。R&Bにも力を発揮する人よ。デイヴを起用したのは、彼の主流がストリートもので、私にいい刺となると思ったことと、これまで一緒に仕事してきた人たちとひと味違う作品ができると思ったからなの。だから「ドリームラヴァー」はいままでとはちょっと違う感じがするかもしれない。ハードでファンキーな曲よね」

タイトルの『ミュージック・ボックス』は、アルバムに収録した同名ナンバーからつけられた。日本でいうオルゴールのことだ。「ウォルターがシンセサイザーをプレイしたときに気に入った音があったの。調べてみたらオルゴールだったのよ。じゃあ、本物のオルゴールを使ってみよう、ということになりサンプリングしてキーボードで演奏して、それに合わせて歌ってみたの。べつにオルゴールについて歌っているわけじゃないけど、曲のイントロでオルゴールが鳴るから印象的でしょ」

もちろん、今回もマライアの音楽的なバックグラウンドであるR&Bやゴスペル、ジャズなどのグルーヴを反映させた、彼女のルーツを感じさせる内容になっている。「母親がオペラシンガーなのに、一方でジャズを歌っていたこともあって、私は生まれながらにして音楽のなかにいたの。兄と姉がアレサ・フランクリンやスティービー・ワンダー、ミニー・リパートンといったR&Bを聴いていたことにも、とても大きな影響を受けたと思うわ。そんなバックグラウンドを自分で把握したとき、私はゴスペルのクラーク・シスターズの音楽を聴くようになったのよ」

注目すべき点は、シングル「ドリームラヴァー」のドリーミーなイメージとは対照的に、彼女が描く音楽の世界が、従来以上にグーンとリアリティを生んでいることだろう。初期のマライアはどちらかといえば乙女チックな詞を歌っていたが、今作では現実をリアルに描いているのだ。

「変化?あえて変化を作っているわけじゃないわ。1stアルバムの曲は高校時代に書きためた作品が中心だったから。そこからレコーディングをスタートした私は、少しずつ変化して現在に至っていると思うの。でも、R&Bをルーツにしている点は不変といえるわ。いちばんの変化は、1stアルバムのときはかなり有名なプロデューサーを起用していたけど、作品を重ねるにつれて、自分自身が大きくプロダクションに参加するようになってきたことね。その結果、自分自身が出せるようになった」

どんなスーパースターでも、頂点を極めたならば後は落ちるだけというのが、ミュージックビジネスの長年の掟である。だが例外的に、つねに前進している選ばれたスーパースターもいる。マライアがそのひとりであることは、今回の『ミュージック・ボックス』がまたまた世界的なヒットとなったことでも明らかだろう。

「私はずっとシンガーになりたかったの。だから、こうして夢が叶ったのはうれしい!赤ちゃんのときからこうなることを願っていたのよ。すごく長かったと思う人もいるでしょうけど、私はとっても早く夢が叶ったと思う。毎日その喜びを味わえるのは本当にステキなことよ。もうだいぶこの状態に慣れてきたけど、いまだにすべてのことが新しくてエキサイティングに感じられるし、毎日本当に幸せだって思っているのよ」

そんなマライアにとって、音楽はポジティブなメッセージを伝える最良の方法だという。

「私にできることは心の底から音楽を作ることだと思うわ。私の詞を聴いてくれるリスナーやファンの人たちが、私が表現したポジティブなものを感じとってくれればうれしい。音楽を通して私を感じてもらえればね。私のやることは、つねに悲しい側面とポジティブな側面があると思うの。いま、人々にポジティブなフィードバックをするためには、明るいメッセージを発信する必要があると感じているの。聴くものによって物の見方が変わるのは本当だと思うわ

もちろん、マライアにもハードな時期はあったそうだ。

「17歳の段階で自活するようになったわ。ウェイトレスやTシャツを売ったりするようなアルバイトをしながら、夜はスタジオワーク。睡眠は1日4時間くらいだったかしら。それがハードというならハ1ドだったと思います」

アメリカンドリームを実現させたスーパースターも、確固たるキヤリアがあったからこそ現在のステイタスがあるというわけだ。

数々の記録を生み出しているマライアだが、そのエネルギー源はやはりプライベートライフだろう。彼女は米ソニー社長トミー・モトーラ氏と結婚したばかり。

「夫は音楽志向の強い人よ。彼自身もかつてエピックレコードと契約してバンドメンバーとして活躍したこともある。だからビジネスマンというよりは、音楽人間そのもの。もし、私が彼に音楽的なコメントを求めれば、ほかのアーチスト同様にアドバイスしてくれるわ。そんなときは私にアーチストとして対応しているのでしょうね」

マライアは夫に結婚式のプレゼントにラルフ・ローレンカティフ アニーをおねだりしたとか。ヴェラ・ワンダのウェディング・ドレスもユニークなデザインがマスコミの話題になった。でもプライベートの彼女はとてもナチュラル。「私は自分で曲を書いてプロデュースするので、レコーディングのときは朝から晩までスタジオに缶詰め状態。そうすると、あっという間に時間がたってしまい、ほかに何かをする時間がないの。だからオフのときは(自分の)牧場で乗馬をしたり、ジェットコースターに乗ったり、活動的なことをするわ。アクション派よね(笑)」

現在彼女が飼っているペットは大が3匹に、ネコが2匹、馬が5頭というから驚きだ。

さて、仕事もプライベートも充実のマライアは、いよいよ新しいチャレンジというべきツアーを開始する。これまで、マライアは業界関係者向けのシークレットギグや、MTVのアンプラグドといった特例以外、ツアーを行わなかった。それだけに彼女のチャレンジは興味深い。このツアーに先行してアメリカのNBCが10月28日に〝THIS IS MARIAH CAREY〟という特番を放映。このなかで彼女のライブシーンがフィーチャーされているのだ。

これは7月15日と16日にNY近郊のシュネクタディのプロクターズ・シアターでシューティングされた、番組用に企画されたライブ・パフォーマンスである。ボクはこの収録の模様を幸運にも観ることができた。おなじみのヒット曲に加えて『ミュージック・ボックス』から「ドリームラヴァー」ほか2曲も歌い、ステージシンガーとしての彼女の新たな魅力が実感できる内容だった。特番はこれにインタビューやレコーディング風景などを加えた作品だ。

「番組はライブシーンを中心にした内容で、これまで観れなかった私の姿を楽しんでもらえると思っているわ。ホームビデオにもする予定で、 TV放映にはなかったシーンも多数加えたスペシャルトのな内容にしたいと思うの」