絶好調のアーチストなら何をやってもいい成果を生むようだ。マライア・キャリーがいい例で、彼女は2枚のアルバム『マライア』『エモーションズ』で驚異的な記録を打ち立てて、その余韻もさめやらぬというのにライブCD『ヴイジョン・オブ・ライヴ』をリリース。ライブとしては異例ともいえるシングル「アイル・ビー・ゼア」(ジャクソン・ファイブのカバー)を全米No1にした。加えてビデオ「VISION OF LIVE+3」もリリース。ビジュアル時代にふさわしい立体作戦を成功させたのは見事である。
ライブアルバムの原題『MTV UNPLUGGED EP』が示しているように、今回の音源はMTVの同名のプログラムを使っている。このライブは総勢27名のバックバンドを率いたスケールの大きなショーで、UNPLUGGEDというタイトルが象徴しているように、極力テクニカルな効果を抑え、ボーカルやコーラス、楽器の生の魅力を尊重した、とても魅力的な内容になっている。これまでライブバージンといわれてきたマライアだけに、ファンにとっては本当にうれしいプレゼントだ。
『ヴィジョン・オブ・ライヴ』は、ライブアルバムであると同時に、あなたのベストアルバムともいえる内容ですね。
マライア・キャリーまずいっておきたいのは、今回のはアルバムじゃなくて、EP(シングルとアルバムの中間)ということ。過去2枚のアルバムとはまったく異質な作品と思ってもらえればいい。
その異質という部分を説明してください。
まったく違うのよ。レコーディングに対するこれまでの方法とは違うし、アンプラグド(プラグを使わない)というファッションを重視したことで、とても新しい試みになった。違う曲を入れたことも新しかった。とにかく楽しくエキサイトした仕事になったと思います。
ライブとスタジオレコーディングの違いをどう思いますか。
ものすごく違うわ。スタジオレコーディングの場合、パーフェクトを目指すから、いろんな部分に集中することになります。その結果、どうしてもトゥー・マッチになる。曲のあらゆる部分に注意を払わなければならないのです。それに対して、ライブは自分のボーカルに専念できる。だから本当にフリーなんです。
でもスタジオレコーディングとは違う面でナーバスになったのではないですか。
そうね。これまで私はライブをあまりやらなかった(彼女はプロモート用のシークレットギグを数回行っただけ)。だからとても新しい試みだったのです。つまりいつも歌っていたのだけど、パフォーマンスはやらなかった。この2つは異質なの。だから今回のライブは私にとって初めてのコンサートといえるでしょう。
ボクは2年前にあなたのシークレットギグを観せてもらったのですが、あのときのギグはとてもジャジーな内容でしたね。今回はかなりR&B/ゴスペル色が濃くなっていると思います。
あのシークレットギグはずいぶん前の話よね。その間に私自身、アーチストとして大きく成長し、いろんなことを吸収できたと思う。今回のようにアンプラグドのやさしい雰囲気のなかで歌えたのは、ラッキーでした。
オーディエンスについてはどんな印象を持ちましたか。
あのなかには知っている人もいたけど、ほとんどの人がたった1枚のチケットを手に入れて来てくれたのです。それだけでも感謝しているのに、とても気持ちのいい雰囲気を作ってくれたし、私の心に近づこうとしてくれた。成功したのは彼らのおかげです。
今回のライブは前の2枚のアルバム以上にゴスペル色が濃くなっていますね。
ええ。このライブにはたくさんのコーラスを起用したのですが、彼らは実際に教会でゴスペルを歌っている人たち。彼らのコーラスが束縛のないフリーな雰囲気を作ってくれたのね。
ボクは日本人のためか、ゴスペルに宗教的な要素以外の魅力を感じます。自由の雰囲気とは喜びのような要素ですね。
私も宗教的に歌っているわけじゃない。あなたがそう感じるのは、歌のなかにスピリチュアルなあり方を感じるからだと思う。私もそのスピリチュアルな魅力にひかれ、教会に行ったときからずっといままで歌っているの。もちろん私はあらゆるタイプの音楽が好きだけど、なかでもゴスペルとR&Bは大好きです。
ジャクソン・ファイブの「アイル・ビー・ゼア」をカバーしているわけですが、この曲を選んだ理由を教えてください。
ずっと私のお気に入りだったわ。私が生まれたときから家族のお気に入りでもあった。まだ小さなマイケルのボーカルがとても強力な印象で、いつか歌ってみたいと思っていたの。
マライアのバージョンはジャクソン・ファイブよりもゴスペル色が濃いですね。
アンプラグド・ライブのシチュエーションを考えた結果なの。アコースティックなインストウルメンタルやコーラスを効果的に使うには、今回のアレンジがいちばんよかったわけです。
もし今後、大きなコンサートを開くとしたら、どのようなカバーソングを歌いたいですか。
うーん、「アイル・ビー・ゼア」はもちろん歌いたいけど、現時点ではわからない。
前のシークレットギグではアレサ・フランクリンの「ドント・プレイ・ザット・ソング」を歌っていましたね。
ええ、アレサは私が尊敬するシンガー。でもいま、あの曲を歌うつもりはない。「アイル・ビー・ゼア」はあらかじめシングル用に入れたのではなく、純粋にショーで歌いたかったからカバーしたの。歌ってみたらスタッフの評価が高くて、ラジオでもいいりアクションだったので、シングルにすることになったの。
素朴な質問ですけど、なぜッアーを行わないのですか。
『マライア』のあとにすぐ『エモーションズ』を作ってしまって、ブレイクがなかったからなの。きっと1stアルバムを出したときにファンの人たちはツアーを期待していたと思うけど、そのとき私は2ndアルバムをレコーディングしていた。とにかくツアーのための時間がなかったの。
年1枚のペースでCDをリリースしているのですから、かなりハードワークですよね。
ええ、とってもハードね。でもこれまでの試みは本当に楽しかった。スタジオで曲作りをしたりクリエイティブな仕事をするのは、とても面白い。私は集中してスタジオワークをするのが大好き。これまでのアプローチのなかで、プロデュースのノウハウも学んだし、そのノウハウをほかのアーチストにも生かそうと思っている。実は「アイル・ビー・ゼア」をデュエットしているトレイ・ロレンツの1stアルバムをプロデュース中なの。
トレイをデュエットに起用した理由は?
しばらくの間、私のコーラスをしてくれていて、才能もあるし、実際に友人同士でもあるから。ライブの前日、デュエットにするアイデアを思いついて、あのようなスタイルになったのだけど、とてもいい結果になりました。
彼のために何曲プロデュースするのですか。
私が1曲と、ウォルターとの共同で2曲。もうレコーデイングに入っているけど、結果的にウォルターとの共同作品が4曲になると思う。つまり私は5曲。
マライア自身のニューアルバムはどうですか。
現在進行中よ!
それはすごい。プロデューサーは決まっていますか。
ウォルター・アファナシェフ。すでに彼とは次のプロダクツを共同で進めているの。私と彼には仕事上のとってもいい関係が生まれている。共通の考えがあるし、彼自身とても才能のある人だし・何よりも仕事をして楽しいのがいい。これまでのレコーディングでもいい成果を生んでいるから、その成果をより前進させたいと思っています。C&C?彼らはとても忙しい人たち。だから次のアルバムでいまのところ決定しているのはウォルターだけよ。
ベット・ミドラーやマドンナのようにいろんなチャレンジをしたいと思いますか。
野心はあるけど、時間がないわ。私はまだキャリアをスタートさせたばかり。コンポーズやプロデュースが面白くなってきたところだから、ベットのように映画を作ったりするのは先のこと。次のアプローチまでにやることはいっぱいあると思う。