主張する女性の立場を明確に打ち出したマライア。
女性のアーティストをインタビユーするとき、僕はいつもフェミニストについての質開をする傾向がある。僕が男性の立場にいるからその種の興味を持つからだと思うだが、もっと単純にいえば、シンガーの中にジェーン・フォンダのような闘士がいてもいいと考えているからでもある。その対象が医者であろうが弁護士であろうがいいのだが、シンガーとか女優という仕事は、どのような職種よりも自己表現力を要求される。そのわりにシンガーの場合は女優に比べてフェミニストであると主張する人は少ない。そこが不思議でならないから、フェミニズムやフェミニストのテーマは、僕にとって大きなテーマに膨らむのだ。
強いていえば、まだ会ったことはないが、シンニード・オコナーやジョニ・ミッチェルは、フェミニストと決めつけるわけにいかないとしても、女性としての社会的地位をしっかり自己表現している人物に思える。環境開題を提唱しているオリビア・ニュートン・ジョンも、変形したフェミニストといっていいし、元ラベルのノナ・ヘンドリックスは、アーティストとしてはっきりとした闘士だった。
マライア・キャリーの場合はどうだろう。昨年の末、彼女にインタビューしたとき、マライアははっきりフェミニストではないと断言していた。確かにシンニードやジョニにジェーン・フォンダのイメージをオーバーラップさせることはできるが、マライアはむしろ静的なタイプの女性であり、詞の内容も社会的なテーマより映画や小説的なストーリー性に重点を置いている。彼女の作品を通してみても、フェミニストであるといえないのははっきりしている。
それにもかかわらず新作『エモーションズ』を聴いてみて、僕は彼女がしっかり自己主張している女性だと痛感した。
「社会的なテーマにひらめきを感じたなら、たぶん曲に書くことになると思うわ。でも、ただ単に口に出したりすることはないでしょう。感じることは書いてみなくてはいけないの」
相変わらず彼女は社会的なテーマに対しては慎重であり、フェミニストであるとも語っていない。しかし、彼女のアーティストとしての自覚と自倍は、明らかに主張する女性の立場を明確にしている。
「今回やろうとしたことは、アーティストとして自分が納得のいく作品にすること、そして自分でプロデュースもやってみて、プロデューサーとしての足場も作ることだった。アーティストとして、ボーカリストとしての地位を確立することで、ボーカリストとしては前のアルバムのときよりも成長したと思う。歌って作曲をして、それからアルバムを作る。それが今の私が本当にやりたいことなの」
前作『マライア』では彼女は部分的なプロデュースを担当したり、ソングライトでは全面的に作曲に関与していた。しかし彼女はそれだけに満足しなかったのである。今回のアルバムではメイン・プロデューサーとしてリーダーシップをとり、しっかり満足するまで曲作りに没頭した。これこそまさに女性という立場に甘んじない社会的な試みといえるだろう。彼女のアプローチをフェミニズムと比較するのが差別というなら、マライアはひとりのアーティストとして、その主張を買いたといってよい。
「すべての曲は私自身が詞をつけたの。たとえば「メイク・イット・ハップン」は自分のこれまでのストーリーを書いた曲で、どうやってここまでの第一歩を踏み出したのか、自分を倍じて進んだ結果、成功をつかんだのかといった、そんなやる気を起こさせるような励みになるような内容がテーマの曲なの。ゴスペルの要素があるわ」
彼女が語っているゴスペルの要素とは、単にサウンド的な部分だけではない。そのテーマそのものがゴスペルのポジティブなスピリットを伝えているのである。
先にも述べたように、今回のアルバムのメイン・プロデュースはマライア自身だが、共同プロデューサーとして、ウォルター・アフアナシェフと、C&Cミュージック・ファクトリーのC&Cこと、ロバート・クライヴィルス&デヴイッド・コールが起用された。
ウォルター・アファナシェフは前作でも「ラヴ・テイクス・タイム」をプロデュースしている人で、マイケル・ボルトンのヒットでもおなじみ。ナラーダ・マイケル・ウオルデンやリック・ウェイクら、スター・プロデューサーを配した前作の中では地味な存在だったが、マライアと最もフィーリングがあったのは彼だったのである。
「私と彼のコミュニケーションはうまくいっていたし、彼は私のアイデアにもオープンな人だから、今回のコラボレーションは理想的だったの。それにウォルターはいろんなアイテアを出してくれたわ。アルバムのエンディングに収録した〝ザ・ウインド〟は、オリジナルはラス・フリーマンが5年ごろに書いた曲なの。この曲のアイデアを出してくれたのがウォルターだったわ。彼が教えてくれた曲はインストゥルメンタルだったので、私はオリジナルに詞があるのかどうかわからず、自分で詞をつけることにしたの。〝ザ・ウインド〟という言葉には因縁があって、コールド・ザ・ウインド・マライア"という曲があったの。知っているかしら?私は子供のころによく聴かされたものよ。それだけに今回の〝ザ・ウインド〟には愛着があるわ。とってもメロディアスだし、これまでの私の曲とは違っていたから、すごく楽しくレコーディングできたの」
分担としてはウォルターがバラードやそれに準ずるボーカル・チューンをプロデュース。ダンス系はもちろんし必しか担当している。マライアとし&Cは同じレコード会社という縁で実現したものだ。
「私自身はバラードに傾倒しているわ。だから今回も6曲収録したわけだけど、ダンスのグルーヴも入れたかったの。タイトなサウンドがあって、より私のボーカルが前に出るような感じにしたかったのね。今、世の中の人たちが注目しているのはほとんどがダンス・ミュージックといっていい。その点でC&しとのコラボレーションはいい勉強になった。彼らと初めてレコーディングしたのは1stシングルにした〝エモーションズ〟なの。この曲で、彼らとコラボレーションする自信がついたわけ」
ふた組のプロデューサーとのジョイントが成功したのはいうまでもないが、前作で参加していた名キーボード長告リチャード・ティーと訣別したのはファンとしては少し寂しい気もする。
「彼は忙しい人なの。自分のアルバムのプロモーション・ツアーがあったのね。ほかにもポール・サイモンらのツアーに出ているし、彼をキャッチするのは難しかったの。それに今回のアルバムのスケジュールでは、彼との調整はまったくつかなかった。私はコラボレートしたかったのよ」
しかし、マライアにも新しい出会いはあった。それはシンガー・ソングライターの大先輩、キャロル・キングとの出会いである。マライアとキャロルは「イフ・イッツ・オーヴァー」を共作した。
「これはサイコーに嬉しい思い出ね。キャロルは私のアイドルだった人。その彼女と曲を作るなんて、とってもエキサイトしたわ!ふたりでピアノに向かって1時間ほどで作った曲なのだけど、レコーディング自体もライブ・ミュージシャンとスタジオを使って、大いにエンジョイしたわ。アレサ・フランクリンのアルバムになぜか参加しているコーネル・デュプリーにウィル・ーリ・・・・・・。偉大なミュージシャンたちと、旧友のようにセッションしたのよ」
注目のツアーの予定は今のところないとのこと。限られたライブとTV出演のみで、しばらくの間、彼女のパフォーマンスはおあずけだ。しかし、マライアにはたくさんの夢がある。ほかのアーティストのためのプロデュースもそのひとつ。何度もいうが、彼女はフェミニストではない。だが、音楽で自立する女性、闘っている女性である。