ジャネット・ジャクソンのように派手なツアーを敢行したわけではないし、マドンナのようにつねにマスコミに登場するわけでもない。ただあるのは7オクターブという天性のボールにエレガントなキャラクター、センスのよいソングライティングの才能だ。世界的なスーパースターになったマライア・キャリーは、シンガーとしての基本的な才能と魅力だけで、頂点を極めた希有な存在である。
彼女が昨年発表したデビューアルバム『マライア』はもちろん全米でNo1に輝いたわけだが、ここから「ヴィジョン・オブ・ラヴ」を筆頭に「ラヴ・テイクス・タイム」「サムデイ」「アイ・ドント・ウォナ・クライ」と、全4曲が連続No.1をマーク。通常のアーチス下ならここでひと休みとなるところだが、マライアは約1年のインターバルで新作『エモーションズ』を完成させ、1stシングルの「エモーションズ」は10月12日付のチャートで早くもNo1を獲得している。まさにチャートバスターズというべき快進撃だが、これだけのチャレンジを成功させているのは、なんといっても彼女のボーカルの魅力に負うところが大きい。とにかく、あらゆるリスナーを魅了するエモーションの泉というべきポ1カルは、ミュージックシーンの奇跡といっていいだろう。
アルバム『エモーションズ』は、マイケル・ボルトンのヒットメイカーとして知られるウォルター・アファナシエフと、売れっ子C&Cことロバート・クライヴィルス&デヴィッド・コールをプロデューサーに起用。マライア自身も前作以上にソングライター/プロデューサーとして活躍している。さらに大先輩のキャロル・キングと共作した「イフ・イッツ・オーヴアー」を収録したり、ラス・フリーマンのスタンダード・ジャズ「ザ・ウインド」をカバーするなど、話題性という点でも申し分のない傑作である。
レコーディングをはじめたのは4月ごろですか。
そのころよ。超特急でね。
曲作りに入ったのは?
実は「ヴィジョン・オブ・ラヴ」をリリースした後、すぐに曲作りを開始したの。「ラヴ・テイクス・タイム」のプロデューサーをしてくれたウォルター・アファナシェフと組んで、アルバム中の6曲のソングライトとプロデュースをした。
ナラダ・マイケル・ウォルデンを再度起用する予定はなかったのですか(ナラダは前作に参加している)。
ええ。実はウォルターはナラダのもとで仕事をしていたので、ナラダがプロデュースした前のアルバムでは、基本的なプログラミングはすべて、彼が担当していたの。私のほかにもナラダのプロダクション・チームに全面的に参加していたのだけど、いまはソニーのハウスプロデューサーになっている。それで今回、大幅にコラボレートすることになったわけ。実は当初、アルバムは自分でプロデュースしたかったのだけど、私とウォルターが共同プロデュースすることで落ち着いたの。彼とのコミュニケーションはうまくいっているし、彼は私のアイデアにもオープンな人だから、一緒に仕事することは望ましかった。ウォルターはとても才能があるし、天才だと思う。自分が前進するときだという、前向きな気持ちも持っていたから、いい人選だった。
C&Cを起用したいきさつは?
彼らもソニー・ミュージックに所属しているから、お互いに引き合わされて知り合ったの。結局、私と彼らとで4曲をアルバムのために作った。1stシングルにした「エモーションズ」は彼らと初めて作った曲。一緒に曲作りをしていると、どんどん息が合うようになり、一緒にコラボレートしたの。
C&Cの起用は冒険ですよね。これまでの彼らはサウンド面で威力を発揮していたと思うのですが。
このアルバムで彼らも幅を広げようと思っていたはずよ。デヴィッド・コールは素晴らしいピアニストで、ゴスペルの演奏がすごい。そちらの才能も優れているに違いないのだけど、C&Cミュージック・ファクトリーではその部分の魅力を出せないのでしょう。私は彼のゴスペルに対する才能に興味を持って、アルバムではそれを、より強く発揮してもらった。おかげでいい仕事ができたと思うし、私のボーカル自体、個性を生かして前面に出すことができたと思う。
ところで、今回のアルバムはボクたちが想像していた以上に早く完成しましたね。
ええ、曲もあったし、タイミングとしてもいいと思った。それで、躊躇しているよりも、発表してしまおうと決意したの。すごく集中して作れたから、早くりリースしたかった。
前のアルバムと比べて違う点はありますか。
やはりとても集中できたことね。短期間で完成させたし、あちこち手直しする必要もなかった。前作よりも、私の視点で作れたと思う。全曲を自分でプロデュース、あるいは共同プロデュースしているわけだし、共同プロデュースの作品では、ウォルターや
C&Cと一緒だったから、ほぼ自分の考えを貫いた。だから、音楽的にも満足している。曲ごとに今度はこのグループ、次は別のグループといったように、計画されたプログラムに従って仕事したんじゃないの。アイデアにも柔軟性を持たせることができた。おしゃれな感じじゃない曲も多いけど、それだけに前作とは違うスタイルの曲も2~3曲あるし…・・。歌詞の面では、2、3の異なるテーマを考えたわ。現時点で経験した男女の愛についても、思うように書いたし、ラス・フリーマンのジャズに新しい詞をつけた「ザ・ウインド」や「メイク・イット・ハップン」では、テーマのうえでこれまでとは違った内容になっているの。前作よりもいっそう自分自身について、内省的な作品になったと思う。
アルバムを制作するにあたって、前作の成功は意識しましたか。
あまり考えなかった。ラッキーなことに1stアルバムは成功したけれど、今回のアルバムを作ろうとしたのが、ちょうど前作がヒットしだすころだったの。だからヒットのプレッシャーを感じる段階じゃなかった。たとえば、ヒット後2~3年してからのカムバック作と違って、少しずつ成功を実感しているときに、もうこのアルバムの準備をしていたわけだから、無用なプレッシャーを感じる必要がなかったわけね。立ち止まって作曲の手を休めたり、前進を止める暇なんて少しもなかった。なぜなら、私はアーチストなのだから!
でも、No.1ヒットが4曲も続けば、当然のようにプレッシャーも生まれるのでは?
いいえ。むしろプレッシャーを感じなかったくらい。確かにヒット曲は多くの人にプレッシャーとなるようだけど、一度成功したんだから、二度と成功しなくても夢はかなったことになるでしょ?今回やろうとしたことは、アーチストとして自分の納得のいく作品にすること。そして、自分でプロデュースもやってみて、プロデューサーとしての足場を作ることだった。アーチストとして、ボーカリストとしての地位を確立することで、前のアルバムのときよりも成長したと思う。
とってもポジティブですね。
そう評価してくれてうれしいわ。やはり、アーチストとして前向きでありたいのよ。
レコーディングに入る前、何かテーマはあったのですか。
自分自身をより強く打ち出すことね。ボーカルをより前面に出し、ビート感のある作品の原点に戻りたいと思ったの。
その点で、C&Cの起用は正解でしたね。
そう思うわ。
「イフ・イッツ・オーヴァー」はキャロル・キングとあなたの共作ですね。
キャロルは偉大なシンガー・ソングライターで、私のアイドルだった人。彼女と知り合って、一緒に仕事ができたのは、とっても素晴らしい経験だった。キヤロルと私がピアノに向かって一時間ほどで曲を作り、レコーディングもバックにたくさんの友人を迎えて・・・。とにかくとっても楽しかった。バックメンバーにはコーネル・デュプリー(g)もいる。彼はもうひとりの私のアイドル。アレサ・フランクリンのレコーデイングに参加していた人。作曲からレコーディングまで全部、昔やっていたような楽しい作業だった。
とても楽しいレコーディングだったようですね。光景が目に浮かぶようです。
ええ。バックメンバーの人たちとも仲よくなったわ。そのなかのひとりトレイ・ロレンズはEPICからデビューが決定したのよ。私の仕事でチャンスをつかんだ人がいるなんてうれしいわ。実は私、ほかのアーチストのプロデュースやソングライトにも興味があるの。当初は自分のことをやってからと思っていたのだけれど、ほかの人の力にもなれる自言がついたみたい!